はじめに
住宅ローンは、なるべく少ない金額を、なるべく低い金利で、なるべく短い返済期間で組むのが理想である。しかしながら、ローン返済開始後の家計の収支を考えると、どうしても長期の返済にならざるを得ない。現状の金利水準(図表1参照)から、今後の金利上昇を予想するのであれば、長期固定金利型の住宅ローンを組むことが安心であろう。現在の貯蓄や今後の家計の収支にゆとりがある場合には、長期
固定金利での借り入れを中心とし、金利の低い変動金利型や、短期の固定金利選択型の住宅ローンを一部組み入れることも考えられる。
長期固定金利型の住宅ローン
1 フラット35と金融機関独自の住宅ローン
長期固定金利の住宅ローンとしては、「フラット35」と「金融機関独自の住宅ローン(以下、「プロパーローン
」という)」が選択肢として考えられる。「フラット35」には買取型と保証型があるが、ここでは「フラット35」の大半を占める買取型を説明する。
「フラット35」と「プパーローン」は、いずれも取扱金融機関により、融資金利が異なっており、融資手数料などの費用も異なっている。また、「フラット35」と「プロパーローン」とでは、保証、繰り上げ返済、団体信用生命保険などの取り扱いに違いがある。そのため長期固定金利の住宅ローンを選ぶときに、融資金利の低いローンを選べば、必ずトクというわけではない。住宅ローンを選ぶときには、保証料、融資手数料、団体信用生命保険料などの費用を含めた総支払金額を比較する必要がある。また、繰り上げ返済の最低金額や手数料、借入後のメンテナンスの利便性も考慮すべきである。
(1)保証
「フラット35」は保証不要であり、保証料は発生しない。「プロパーローン」は保証を必要とする金融機関が多く、契約時に保証料を一括で支払う(注1)ケースが一般的である。
(2)融資手数料
「フラット35」の融資手数料には、3万1500円などの固定金額方式と、融資金額の0.95%などの料率方式とがある。「プロパーローン」の融資手数料は、3万1500円などの
固定金額方式が多い。
(3)団体信用生命保険
「フラット35」は、独自の団体信用生命保険制度である機構団信制度を提供している。任意加入なので、機構団信制度に加入する場合、特約料が別途必要であり、返済終了まで毎年1回特約料を支払う。「プロパーローン」は、団体信用生命保険料として年0.3%相当が融資金利に含まれているケースが一般的である。
(4)繰り上げ返済
「フラット35」の場合、一部繰り上げ返済の最低金額は100万円であり、返済手数料は無料である。「プロパーローン」の場合、一部繰り上げ返済の最低金額や返済手数料は金融機関により取り扱いが異なる。
2 事例
3000万円のマンションを、600万円の自己資金と長期
固定金利型の住宅ローン(返済期間25年、元利均等返済)を組んで、購入するケースを考えてみよう(図表2参照)。
住宅ローンの契約時には、自己資金600万円から、融資手数料と保証料を支払うことになる。したがって、融資手数料と保証料の金額によって、住宅ローンの借入金額が異なってくる(注2)。
@「フラット35」で融資手数料が融資金額の0.95%の場合、借入金額は2424万円となる。A「フラット35」で融資手数料が3万1500円の場合、借入金額は2404万円となる。B大手銀行の「プロパーローン」の場合、一般的に融資手数料のほか、保証料が必要となる。融資手数料が3万1500円、保証料が融資額1000万円当たり17万9000円とすると、借入金額は2447万円となる。
融資金利は、金融機関により異なる。この事例においては、@融資手数料が融資金額の0.95%の「フラット35」の融資金利を年2.83%(注3)、A融資手数料が3万1500円の「フラット35」の融資金利を年3.03%(注4)、B「プロパーローン」の融資金利を年2.90%(注5)とする。
上記の@、A、Bの各住宅□一ンについて、総支払額を比べてみよう。@の住宅ローンは、「フラット35」なので保証は不要だが、融資手数料23万280円と団体信用生命保険料96万9300円がかかる。ローン返済総額3384万5098円との合計で、総支払額は3504万4678円である。Aの住宅ローンも、「フラット35」なので保証は不要だが、融資手数料3万1500円と団信保険料96万7700円がかかる。ローン返済総額3431万2759円との合計で、総支払額は3531万1959円である。Bの「プロパーローン」は、団信保険料は金利に含まれており追加費用は発生しないが、融資手数料3万1500円と保証料43万8013円がかかる。ローン返済総額3443万1234円との合計で、総支払額は3490万747円である。この事例では、総支払額はBの「プロパーローン」が最も少なく、次に@の「フラット35」、最も多いのはAの「フラット35」ということになる。
また、繰り上げ返済の費用と利便性も重要なポイントである。繰り上げ返済手数料は、@とAの「フラット35」は無料だが、Bの「プロパーローン」については、ネット経由では無料、窓口経由では2万1000円となっている。「フラット35」は100万円以上ないと繰り上げ返済てきないが、Bの「プロパーローン」は、1万円からでもネット経由で繰り上げ返済を行えるので、利便性は優れていると言える。
おわりに
長期固定金利の住宅ローンは、「フラット35」がいつでも有利というわけでもない。金融機関の長期固定金利型の「プロパーローン」が有利な場合もある。住宅ローンを選ぶ際には、単に金利水準だけを比較するのではなく、融資手数料、保証料、団体信用生命保険料等の費用を含めた総支払額を比較する必要がある。また、繰り上げ返済の費用と利便性も考慮したうえで、住宅ローンを選択すべきである。
(注1)保証不要としている金融機関もある。保証料として融資金利に年0.2〜0.4%程度上乗せする方法もある
(注2)ここでは、融資手数料、保証料以外の初期費用は考慮していない
(注3)楽天モーゲージ(平成19年11月実行分)
(注4)みずほ銀行(平成19年11月実行分)
(注5)住友信託銀行(平成19年11月実行分)