底入れ傾向にあった地価の動きに大震災が水を差した。国土交通省が発表した基準地価(7月1日時点)によると、全国平均の前年比下落率は縮小したものの、東日本大震災をはさんだ半年をその前の半年と比べると下落率は拡大している。
地価の動向は基準地価と1月1日時点の公示地価で知ることができる。その調査地点は約1640が共通しており、そのデータを用いると半年ごとに地価を比較できる。
これでみた地価の動きは東京、大阪、名古屋の3大都市圏でも全体としては全国平均と同じ傾向だ。ただし、大阪圏だけは下落率が縮小している。下落率が拡大した東京圏、名古屋圏とは対照的だ。
東京圏の場合、住宅地の下落率は0.7%から1.0%に、商業地で1.1%から1.4%に拡大した。一方、大阪圏は住宅地で1.0%から0.7%へ、商業地で1.4%から1.1%へ縮小している。
震災の影響で東京圏では高層マンションの買い控えなどの動きがあったものの、大阪圏は震災の影響をほとんど受けなかったことが反映しているという。
実際、東京圏の動向を細かく見ると、臨海部の高層マンションで買い控えの傾向がみられる一方で、東京の多摩地区は地価の下落率が縮小している。液状化などの被害が目立った臨海部から、地盤が安定しているとみられている内陸方面の地域へ人気が移っているようだ。
これには原発事故による影響も含まれているはずだ。震災後の人の動きは、東日本から西日本への方が、西日本から東日本へより多くなったという。地価の動きと連動している印象を受ける。
バブル崩壊後、日本では長期にわたり地価が傾向的に下落してきた。さらにリーマン・ショックの影響も受けたものの、このところは下落傾向に歯止めがかかりつつあった。
欧米の不動産バブルが崩壊し、新興国の不動産価格の上昇も限界にきていると指摘されている。日本の不動産は相対的に安価になっており暴落の危険性も低いとみられている。
投資の対象として見直されていいはずなのに、大震災と原発事故は日本の不動産市場に対しても暗い影を落としている。
不動産価格は担保価値や資産効果を通じて経済に影響を及ぼす。地価が上昇に転じれば、経済を取り巻く景色も大きく変わるだろう。
大震災と原発事故から不動産市場が受けたダメージを克服するには、震災復興を急ぎ、原発事故を早期に収束させて、安全で安心な国という日本のイメージを回復することが不可欠だ。