国税庁が1日発表した路線価が東京など大都市圏で上昇した背景には、円安を背景にした外国人投資家による不動産取得の増加がある。ただ、1〜2年後には地価がピークに達するという見方が多く、上昇が続くかは見通せない。
東京・JR目黒駅から徒歩5分の複合施設「目黒雅叙園」。ホテルや結婚式場があり、オフィス棟にはアマゾンジャパンの本社などが入る。
森トラストが昨年8月に取得し、今年1月に中国政府系ファンドも投資する米ファンドへ売却した。取引額は非公表だが、森トラストの取得額が約1300億円、売却額が1400億円超とみられている。半年足らずで100億円以上高騰した形だ。
ニッセイ基礎研究所によると、2014年の海外投資家による日本国内の不動産取得額は前年比約3割増の約9000億円。10億円以上の物件の取引に限ると、国内全体の約2割を占めた。
この1年でも、JR東京駅に近いオフィスビル「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」など、100億円以上の大型物件取得が相次ぐ。ニッセイ基礎研の増宮守・准主任研究員は「オフィス取引に限れば、海外投資家の取得額は08年のリーマン・ショック前のピークに近づいている」と分析する。
個人も買い意欲は旺盛だ。不動産仲介大手「東急リバブル」では、14年度に外国人が購入した物件の総額は前年比76%増で、今年度に入っても増加ペースは衰えていない。「中国などの投資家が物件を探しにほぼ毎日訪れる。マンションやオフィスを1棟ごと買う人も多い」という。
海外投資家が日本の不動産に注目しているのは、円安効果が大きい。12年秋以降、1ドル=80円前後から120円台まで円安が進んだため、海外投資家にとって日本の不動産は割安になっている。20年の東京五輪に向けて価格がまだ上がるという強気の見方もある。
不動産投資信託(REIT、リート)による物件獲得競争も価格を押し上げている。リートの利回りは3〜4%前後で、低金利の今は魅力的な投資先。日銀の金融緩和でお金が大量に出回っており、国内の機関投資家の運用先として、リートが見直されている。6月30日現在のリートの時価総額は約10兆6000億円で、1年前より25%増えた。
過熱気味の不動産市況に対しては懸念もある。ニッセイ基礎研が市場関係者に不動産価格のピークを尋ねたアンケートでは「16〜17年」と答えた人が52%で最多だった。04〜07年の「ミニバブル」で上昇した不動産価格がリーマン・ショックで急落したような事態が再び起こる可能性もある。
◇REIT
投資家から集めた資金をオフィスビルやマンション、商業施設などの不動産に投資し、賃料収入や売却益を分配する金融商品。Real Estate Investment Trustの頭文字を取ったもので、「不動産投資信託」と呼ばれる。
不動産投資は一般的に数千万円以上の資金が必要なうえに、借り手や転売先が見つからないなどリスクも大きいが、証券取引所に上場するREITなら1口数万〜数十万円程度の小口投資が可能。1日現在、東証に52銘柄が上場しており、国内株式と同じように取引時間中に自由に売買できる。当期利益の90%超を投資家に分配すれば税金を免除される仕組みがあり、配当(分配金)利回りが比較的高い傾向もある。
アベノミクスで不動産市況の回復期待が高まった2012年以降投資家の資金が流入、リート上場が相次いでいる。