全国の住宅地の価格が9年ぶりにマイナスを脱した。地下鉄開通の影響で大幅に上昇する地域がある一方、3大都市圏でも鉄道駅から離れた郊外の地価が落ち込むなど、交通アクセスで明暗が分かれた。上昇局面に入りつつある一部の地方では、投資の過熱を不安視する見方も出ている。
子育て支援で健闘も 地方
住宅地の上昇率が全国トップの12・3%だった仙台市若林区白萩町。2015年末に地下鉄東西線が開業するまで公共交通機関はバスだけだったが、新駅と仙台駅は6分で結ばれ、宅地としての魅力が高まっている。会社員、佐藤克広さん(56)は「バスを使っていた時は仙台駅まで30分かかっていた。通勤がだいぶ楽になった」と話す。仙台市は東西線沿線の7地点が上昇率トップ10に入った。地元の不動産業者は「昔からの住宅街で空き物件は少ないので、しばらくは上昇が続くだろう」と予測する。
仙台、札幌、広島、福岡といった地方の中核的な4市の上昇率は2・8%で、東京都の1・9%を大幅に上回った。不動産価格が高止まりとなっている東京を嫌気して、地方へと資金を振り向ける投資家が増えているのが一因とされる。
ただ、大都市だけでなく地方でも節税対策として貸しアパートの建設や投資用マンションの購入が活発化。「住宅の供給が増え過ぎて、空室率が高まっている地域も出ている」(不動産アナリスト)と懸念する声もある。
3大都市圏でも、交通アクセスが悪い郊外では地価が低迷している。下落率ワースト6位までに3地点が入った神奈川県三浦市。京浜急行電鉄の終着駅三崎口から東京・品川まで1時間余りだが、市南部の三崎町地区など駅から離れた地点で下落が続く。三浦市では都心への人口流出や空き家の増加も深刻化しているといい、地元不動産業者は「バブルの時代は東京に通勤する人も多かったが、ここ数年は都心に吸い寄せられている」と嘆いた。
地方でも、手厚い子育て支援などで若い世代の呼び込みに成功した地域は健闘している。岐阜市の南隣にある人口約2万5000人の岐阜県岐南町は0・3%上昇。小中学校の給食無料化や第3子以降の保育料免除などに取り組んだ結果、10年間で人口は約2000人増え、住宅需要も高まっている。町子育て支援課の山口智恵課長は「若い世代に子育てに優しい町と喜んでもらっている。子育てを楽しみ、頑張れる町にしたい」と意気込む。
広島市に隣接する広島県府中町は4・9%のプラス。町の子育て支援やアクセスの良さに魅力を感じ、他県から移り住む人も増えているという。
三菱総合研究所の酒井博司主席研究員は「地方で地価下落を食い止めるには、地域の資源や特長を生かした街づくりが重要となる」と指摘した。
商業地上昇率、大阪独占 上位5位、訪日客増え好調
訪日外国人旅行者の増加に伴い、大都市や観光地ではホテルの需要が高まっており、地価を押し上げている。建設計画が相次ぐ大阪市の商業地は、全国の上昇率1~5位を独占した。大阪府は、宿泊施設の客室稼働率が2016年に全国で最も高かった。大阪市内では、ホテルに加え、飲食店や中国人に人気のドラッグストアの出店も多い。道頓堀地区の1地点は前年比41・3%で、上昇率が全国1位となった。
京都市中心部もホテル不足が顕著となっている。外国人に人気の高い八坂神社付近の商業地は29・2%上昇。周辺では、需要の高さに比べ、売りに出される物件が少なく「驚くような高値での取引もある」(国土交通省担当者)。大規模再開発が活発な福岡市の博多駅周辺では、26・2%の上昇地点も。クルーズ船で来日した外国人が立ち寄る複合商業施設「キャナルシティ博多」付近も16・0%のプラスとなった。
外国人が多く訪れるスノーリゾート地の北海道倶知安町では、住宅地が平均5・0%上昇。ホテルの従業員向けの物件が不足していることが背景だ。
利便性劣る地域、下落傾向 石沢卓志・みずほ証券上級研究員の話
全用途の平均が2年連続で上昇し、地価が回復傾向にあることを示した。ただ、最近の不動産市場は大きく変動しており注意が必要だ。直近では東京圏のマンション価格が高くなり過ぎて販売が不調だ。大阪圏や名古屋圏でもエリアによって明暗が分かれている。一部の住宅価格はサラリーマンが無理なく購入できる水準を超える一方で、利便性が劣る地域で下落傾向が強まると予想している。地方圏の地価は下げ幅を縮小したが、長年の下落で水準が相当下がったことが要因で、改善したとは言えない。人口減により下落が続く地域も増えるだろう。